座談会メンバー
マイペース
このサイトのベースになっている調査(子どものありのままを捉える調査)の現リーダー。2019年度の調査スタート時からプロジェクトに参画。
向日葵
こども研究所メンバー。2020年度の調査からプロジェクトに参画。
ミーハーおたく
こども研究所メンバー。2021年度の調査からプロジェクトに参画。
聞き手たちと自分らしい写真
2021年度調査としておこなったインタビューの公開が完了したということで、今回は聞き手として実際に中学生たちと対話したみなさんに集まってもらいました。まずはそれぞれ自己紹介がわりに、お名前(ニックネーム)と事前に選んできてもらった自分らしい写真についてお話いただけますか。
ペース
こんにちは。マイペースです。自分らしい写真は、この〈満面の笑み〉という写真です。何があっても、とりあえずごはんを美味しく食べられて、お酒を美味しく飲めたら、なんとかなると思っています。
向日葵です。自分らしい写真は、〈毎年夏に訪れる場所で見つけた向日葵〉で、眺めているだけで元気が出ますね。向日葵に囲まれたおうちにいつか住みたいです!
おたく
ミーハーおたくです。〈マイカメラ〉という写真を自分らしいと思って選びました。家族時間を撮りたくて3年ほど前に買ったカメラで、ちょっと無骨な見た目と単焦点レンズが写す空気感が気に入っています。
マイペースさんの自分らしい写真〈満面の笑み〉
体験を通して自ら成長する主体的な存在
写話(写真談話構成法)という手法を使った子どもたちの「ありのまま」に関する調査は、2019年に始まって、現在インタビューを進めている2022年度分で4年目を迎えました。そもそもこの調査はどのようにはじまったのでしょう?
ペース
独自の調査や観察で、「ありのままの子ども」の姿を、ニュートラルにまるごと捉えるというのが私たちこども研究所の目指していることなのですが、それまでとは違う新しい調査をはじめようというタイミングで、2019年3月にいくつかの手法でテスト調査をおこなったんです。そのなかで、写話を使った調査が子どもたちの姿をよくとらえることができていて面白そうだということで、その年の秋からいまのような形の調査が始まりました。
※写話については、こちらをご覧ください。
ちなみにテスト段階では、他にどんな調査を試されたんですか?
ペース
私がこども研究所にきたのはテスト調査が終わったすぐあとだったので直接は関わっていないのですが、いくつかのマンガのセリフなどを全部書き出して、使われている言葉がこの10年でどう変わったかを調査したり、子どもの遊びにエスノグラフィー的に密着したりしました。
いくつか実験的に調査をしてみた結果、それまでおこなっていた「わくわくみらいリポート(みらリポ)」という、ある小学校のクラスの総合的な学習の時間に密着して子どもたちの変化を追いかける調査の後継として、いまの写話を使った調査をおこなうことになりました。
調査に協力してくれる子どもたちはどのように選ばれているのでしょう?
ペース
こども研究所では、子どもを「体験を通して自ら成長する主体的な存在」ととらえています。それをふまえて2019年度は、地域によって子どもたちの体験が異なるだろうと考え、「場所と体験」をひとつの軸に、東京都内、瀬戸内海の島、地方の中核都市、東日本大震災の影響の大きかった地域という全国の4ヵ所で10歳(小学5年生)前後の子どもたちにインタビューをしました。 2020年度からはコロナの影響でオンライン調査に切り替えたため、インタビューの対象を中学生にしたのですが、多様性をキーコンセプトに「さまざまな場所」にいる子どもたちに話を聞こうということでやっています。 。
「場所」「体験」「多様性」というキーワードが出てきましたね。
ペース
現代では子どもたちの居場所も多様化していますし、それにともなう子どもたちの体験も多様化していると思うんです。そこでインタビューする場所の幅を広げることで、できるだけいろいろな体験をしている子どもに出会いたいと考えています。いろいろな場所でインタビューをするのは、◯◯にいる子どもたちはこうである、という分析をしたいわけではなくて、いろいろな場所にいったほうが結果的に同じ日本でもこれだけ体験の異なる子どもたちがいると分かるのではないかと思うからです。
そのあたりは向日葵さんが思いをもっていろいろな団体に調査協力のアプローチをしているので、ぜひ語ってもらえたら。
向日葵さんの自分らしい写真〈毎年夏に訪れる場所で見つけた向日葵〉
普通ってなんだろう
インタビューに協力してくれる中学生を集めるために、毎年5〜6程度の団体や学校、施設などにご協力いただいています。どんなところに協力してもらうかは一番悩みますね。まずはどこに子どもたちがいるのだろうということから考えて、いままで出会えていない体験をしているような子がいそうな場所にお声がけするようにしています。
今後、こういう場所で調査をしてみたいと考えているところはありますか?
2021年度は、私立中学校や不登校の子が集まる場所、こども食堂や地域のサードプレイス的な場所などに協力してもらったのですが、本当は外国ルーツの子どもたちが集まる場所でも調査をしたかったんです。なかなか協力していただける団体が見つからずにいるので、日本に暮らす外国ルーツの子どもたちの話は聞きたいと考えています。
他にもこんな子に話を聞いてみたいという子はいますか?
ペース
チームで議論をするときに、「“普通の子”に話を聞きたい」という話はいつもしていますよね。私たちが注目したりアプローチしたりしやすい、特別な才能を持った子や、特殊な環境にある子、調査に積極的に応じてくれる子ばかりではなく、どこの中学校にもいそうだけど私たちがなかなか出会えていないような子にも話を聞きたいなと。「普通の子」というとらえ方も、もしかしたら大人の勝手な目線かもしれないですけど。
普通ってむずかしいですよね。「普通の大人」ってなんだろうと言われると考えちゃうし。
ペース
あとは、わりと多くの中学生たちのなかに、私たちが話している「普通の子」とはまた別の意味で、「普通でありたい」という感覚がある気もします。別調査でアンケートをとると「自分らしくありたい」という答えが多く返ってくるんですが、直接話してみると「まわりから浮きたくない」「普通でいたい」という声が聞こえてくるんです。
ミーハーおたくさんの自分らしい写真〈マイカメラ〉
聞いているようで聞けていない
マイペースさんも、向日葵さんも、ミーハーおたくさんも、日常的にインタビューをするような仕事をされてきたわけではないとお聞きしています。調査で聞き手をされるうえで、何か準備や勉強などされたのでしょうか?
2021年度の調査をはじめる前にも、有識者の方々にお話を聞きにいきましたよね。
ペース
不登校だった子たちにインタビューするにあたって、子どもたちと実際に接している人たち何人かに、アドバイスをもらいにいったりしましたね。
もらったアドバイスのなかで、印象に残っているものはありますか?
ある学校で聞いた「子どもたちが心を開いてくれれば、むこうから来るし、話してくれるので、そのタイミングを待つ」という先生のお話は印象的でした。
おたく
私はこの調査に参加する前にコーチングの研修にいったんです。コーチングとインタビューは違うものではあるんですけど、傾聴の姿勢ということでは共通していて。
それはどういうことでしょう?
おたく
その研修で、「あなたたちは人の話を聞いているようでいて、実のところぜんぜん聞いていないんですよ」と講師から言われたんです。話を聞きながら次の質問を考えたり、会話をしながら自分はどうだったかなと考えたりして、相手の話をきちんと聞けていないんです。言葉に集中するだけでなく、話している雰囲気とか表情も含めて話を聴くということが必要なんです。そういうようなことを言われて、この調査でも目の前の相手に集中するということはトライしていました。
傾聴の姿勢は、一番むずかしいですよね。相手が考え込んだり、言葉を選んでいたりすると、どうしても間ができるのですが、それを埋めすぎないよう心がけています。いまふりかえると最初の頃は、間ができると売れないショップの定員さんみたいに「私も◯◯なんです」みたいな、自分もそっち側だよというアピールをしてしまっていたと思うんです。だけど、だんだんそういうことじゃないんだなと分かってきて、いまはとにかく言葉を待つようにしていますね。
【中編】につづく
(次回の中編では、中学生にインタビューするうえでの工夫や失敗談など、具体的なエピソードをお届けします。)