プロフィール
竹林亮(たけばやし・りょう)
映像作家
時代を問わない普遍的なストーリーをもつ、あたたかな映像作品を得意とし、現在はコマーシャル、YouTubeコンテンツ、リモート演劇、映画など、表現は多岐にわたる。
監督・原案・共同脚本を務めた、あさぎーにょ主演のYouTube短編映画『ハロー!ブランニューワールド』(動画名:もう限界。無理。逃げ出したい。)は国内外で5000万回以上再生され、多数受賞。すべての工程をインターネット上のみで仕上げたリモート演劇『Bestfriends
.com』はメディア芸術祭の審査員推薦作品に選出された。2021年3月には青春リアリティ映画『14歳の栞』が公開。監督・共同脚本を務めた長編映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』が2022年10月より全国順次公開中。
1クラス35人全員に等しく
密着、が生まれた背景
映画『14歳の栞』は、どのような経緯で制作されることになったのですか?
きっかけは、映画のエンドクレジットで使っているクリープハイプの「栞」という曲です。この曲を長く愛される曲にしたいという相談が(所属会社の)CHOCOLATE Inc.にあり、その企画を考えていたプランナーに、自分の娘が保育園を卒園するタイミングで作った10分ほどの卒園記念ビデオを見せたんです。そのビデオというのが、卒園する全員を同じ(時間の)比率で写したもので、「お母さんやお父さんの好きなところ」というテーマで子どもたちに語ってもらったものでした。そこから1クラス35人全員に等しく密着していくドキュメンタリーを作ることになったんです。
なぜ14歳=中学2年生だったのでしょう?
それは曲の歌詞からプランナーが考えたんですが、14歳って心も体も大きく変化するし、人生のなかでも一番いろいろな感情が渦巻いている頃だと思うんです。先輩でも後輩でもあるし、大人でも子どもでもない。受験もちらついてくるし、恋愛をする子もいる。そんなすごく変化のある時期の人間関係にフォーカスしようということで、中学2年生の3学期というキーワードが出てきたようです。
中学校の1クラスにまるごと密着した映画というのは異例だと思います。あの「2年6組」の35人は、どうやって密着できることになったのでしょうか?
ロケーションコーディネーターの方が全国の何百校かにリサーチをしてくれたところ、4校が興味をもって手を挙げてくれたので、それぞれの学校に見学にいったりして最終的にあのクラスに決まりました。
あのクラスを撮影することになった決め手はなんだったのでしょう?
理由はいろいろあるんですが、公立の中学校だったというのも大きくて。いろいろな生徒がいて、記憶のなかにある中学時代の自分やクラスメイトの姿につながるものを感じたこともあって、あの学校に協力してもらいたいとなったんです。それから、撮影が実現したのには担任の先生の存在も大きかったです。もともとご自身で授業中にカメラを回して「学級通信」として保護者向けにシェアしたりだとか、映像を使った教育にも力を入れられていて、この映画の撮影にも興味があるとおっしゃっていろいろと協力してくださりました。
映画『14歳の栞』ポスター ©CHOCOLATE Inc.
最初から好奇心満々の子もいれば、
様子をうかがっている子もいて
撮影前はどのくらいかけて準備をされたんですか?
めちゃくちゃ時間がないなかで撮影に入りましたね。撮影に入る前に彼らの遠足に同行させてもらったりはしたんですが、撮影する学校が決まってから1ヵ月くらいでスタッフ集めや準備をして、バレンタインデーの前くらいから修了式までを撮影させてもらいました。
信頼関係がなければ撮影できないだろうと思われるシーンが作品中にいくつもありましたが、関係性の構築はどのようにされたのでしょう?
関係性の構築はなかなか難しくて、カメラマンとか撮影スタッフには、何を撮るわけでもなくただカメラをもって教室にいるということを、撮影がはじまる1週間前くらいからやってもらいました。あとは撮影チームを最初に男子班と女子班に分けました。カメラマンも録音もディレクターも全員が女性のチームと、全員が男性のチームを作って、女の子は女性のスタッフが、男の子は男性のスタッフが撮影するようにしたんです。あとは、撮影スタッフ一人ひとりがそれぞれの子とお話したりして関係構築してくれたので、ディレクターだけが特別に何かをするというのではなく、スタッフ全員で接して関係を作っていったという感じですね。ただ、撮影期間は約2ヵ月あったんですが、たぶん最初の1ヵ月くらいは空回っていました。
生徒たちからすれば、知らない大人たちが来て撮影をはじめるわけですもんね。
そうですね。事前に全員と話をさせてもらって、一人ひとり了解をもらってから撮影に入ったんですが、最初から好奇心満々の子もいれば、様子をうかがっている子もいて。
様子をみているような子に対しては、どうやって撮影をさせてもらえる関係を築いていったのでしょう?
カメラをもたずに一緒に下校したりだとか、じっと辛抱してむこうから近づいてきてくれるのを待ったりだとか、いろいろな試行錯誤をしました。そうしているうちに、気温が暖かくなってくる頃には、みんなが「撮っていいよ」という感じになっていって。そうするとむこうからスタッフルームに遊びにきたりするようにもなっていきましたね。
スタッフに共有していたのは、崩してもらうことでした
中学生同士のやりとりも驚くほど自然な雰囲気で、思わず自分の中学時代を思い起こしました。
最終的にはみんなが自分たちに飽きてくれることをめざしました。撮影をしているぼくたちと話すことを楽しんでくれるだけだと、それはそれで映画として成り立ちづらいので、こちらも楽しくなりすぎないようにしましたし、自分たちを無視してほしいとお願いしたりもしました。何週間かすると、撮影されていることに対してリアクションをとるのにも飽きたり疲れたりしたところもあるかもしれません。ずっと一緒にいることでいい感じに飽きてもらったという感じです。
中学生たちとの関係構築のお話がさきほど出ましたが、それ以外にも何か撮影される際に心がけたことや工夫されたことはありましたか?
30分〜1時間くらいの個別のインタビューをそれぞれ2回おこなったんですけど、最初はみんなガチガチに緊張しているんですよね。だけど、とにかくいろいろな昔の話、小学生のときはどう過ごしたみたいな話を、じっと聞かせてもらっていたら、だんだんすらすらと話してくれるようになった子もいました。
関係構築のお話に通じますが、無理に追いかけない姿勢は大事そうですね。
あと、撮影中にスタッフに共有していたのは、崩してもらうことでした。撮影スタッフはみんな仕事モードなので、緊張感がにじみ出てしまっていて。それがすごいプレッシャーを与えてしまっていたんです。なので、何か質問するときにもわざとくつろいだ感じの崩した体勢で聞くようにしたり、それを撮るカメラも目線から外れるよう構えたり、録音もスタッフはよそを見ているような感じでマイクだけ話している子のほうに向けてみたり、とにかく視線がその子に集中しないように気をつけました。
あの中学生たちのリアルな姿の裏側には、そういった工夫があったのですね。
ただ、必ずしもみんな素だったわけではなかったと思います。ぼくたちが来てから「授業中に寝れなくなった」と言われましたし(笑)
【中編】につづく