中学生ファッション誌No.1 『ニコラ』編集部にきく、 中学生のいまとコミュニケーション【中編】

好きなものも、憧れる存在も、選ぶファッションも、一人ひとり違うし、一人のなかにだっていろいろな面がある。ひとことでまとめられる「いまどきの中学生」なんて存在しない。だけど、同じ時代に同じ年代を生きているからこそ共通する何かもきっとあるはず。そんな何かを知るきっかけとして、今回は中学生向けファッション誌『nicola(ニコラ)』の編集部を訪ねました。

迎えてくださったのは、編集部の野村彩乃さんと平野千晶さん。「ニコ(モ)」と呼ばれる専属モデルの中学生たちと日々接しながら『ニコラ』を作っているお二人に、雑誌作りをとおして感じる現在の中学生事情や、モデルや読者とのコミュニケーションのことなど、あれこれお聞きしました。全3回の連載形式でお届けします。

プロフィール

野村

野村彩乃 (のむら・あやの)

ニコラ編集部員。別媒体の編集を経て、2021年から『nicola(ニコラ)』に編集者として携わる。

平野

平野千晶 (ひらの・ちあき)

ニコラ編集部員。学生時代の同誌編集部でのアルバイトを経て、2022年から『nicola(ニコラ)』に編集者として携わる。

nicola

nicola(ニコラ)

新潮社が発行する、中学生対象のファッション誌。毎月1日発売で、発行部数は20万部(※新潮社公式サイトより)。流行のファッション、ビューティー、学校ネタを中心に、中学生活が楽しくなるコンテンツが盛り沢山。モデル(通称ニコ(モ))はすべて専属で、読者との距離が接近する交流イベントも多数。

ニコラネット 公式Twitter

選択肢が多くなったぶん、
忙しさも多様化している印象があります

前編の最後では、読者の声を記事に発展させていくお話がありましたが、どのような声がよく寄せられますか?

野村

「nicolaお悩み相談ルーム」という連載があって、その企画によく届くお悩みが、家でスマホを見られる時間が30分と決められていて、友達との会話についていけません、というようなもので。

「ハイパー忙しい中学生の部活後ルーティン」(2022年11月号)など、効率よく何かをするという企画も目に止まりました。このあたりはいまの中学生をとりまく環境ならではだなと感じます。

野村

そうですね、中学生たちは忙しいんですよ。

平野

「時間がない」「忙しい」というキーワードが、アンケートでもわりとよくあがってくるんです。なので誌面でも、「時短」とか「忙しくてもできる」というキーワードが最近は増えている気がします。

何に忙しいと感じている子が多いのでしょう。

野村

その子その子によっていろいろだと思うんですけどね。たとえば部活が忙しい子だったら、部活をがんばったあとに家に帰ったら2時間寝ちゃって時間がとれないとか。一方で、忙しい忙しいって言いながら、家に帰ってから2時間スマホを見ているという子もいますし。全体的に見ると、私たちが中学生だった頃と比べて選択肢が多く、そのぶん忙しさも多様化している印象があります。

忙しさのなかで、どのように時間をやりくりして、何を選び取っているのでしょう?

野村

最近だとYouTubeの10分も見ていられないから早送りしているというのを聞きますね。何かを捨てるというより、全部やりつつ、そのなかで厳選しているのかもしれないです。フルだと10分の動画だけど、面白かったり友達との話題にできたりしそうな2分は見て、残りの8分は捨てるとか。そういう取捨選択はしているかもしれません。

置いてけぼりになりたくない

動画でいうと、倍速再生も当たり前だと聞きます。そういった行動の背景には何があると感じますか?

平野

置いてけぼりになりたくない、みたいな心理がはたらいていそうですよね。

野村

そうですね。一人になりたくない、というのはありそうな気がします。そのためには、みんなが見ているものを見なくてはいけない、(他の友達から)浮かないために見ておくという感じですかね。良くも悪くも、どんどん流れていく流行についていかなきゃ、という意識はあると思います。その一方で、自分をもっている子がかっこいいという企画が人気だったりもするんですけど。

みんなから浮きたくない気持ちと、自分をもっている子をかっこいいと思う気持ちのどちらも本心だと思うのですが、その二つの気持ちの間でどのように落とし所を見つけているのでしょうね。

平野

難しい……どうなんですかね。

野村

落とし所は見つかっていないんじゃないかな……だけど、「浮かない」はボーダーラインになっているような気がします。

平野

一部分で個性を出すみたいな風潮はある気がしていて。大きな枠では同じところにいるんだけど、私たちが「これを+αしてみようよ」と提案することで、読者の子たちもワンランクアップするというところがあって。1段2段のちょっとした差かもしれないですけど、そこで個性を出す/出さないという線引きをしているように感じますね。

他にお悩み相談でよく寄せられるテーマは、どんなものがありますか?

野村

見た目でいうと、自分の笑い方が気になるというお悩みもきますね。笑顔に自信がないからマスクをとりたくないと。あとは、友達や家族に言えないから、という人間関係のお悩みもよく届きます。

ニコラ読者に人気の企画

誌面で人気がでる企画には、どういうものがありますか?

野村

勉強企画は人気ですね。成績のよいモデルが実践している勉強の方法を取り上げたり、新作文房具を取り上げるとみんなテンション上がってくれたりとか、去年は勉強しながら身長を伸ばすというネタ的な企画もありました(笑)

平野

塾コーデも人気ですよね。塾で浮かないけど、かわいいコーデとか。

塾コーデ!ここでも浮かないことは大事なんですね。ちなみに、普段のコーデと何が変わるのでしょうか?

平野

ハイウェストだとずっと座っていると苦しくなるからやめようとか、白い服は袖が汚れるとか、そういう感じでしょうか。

ここでも「浮かない」ことを大事にしている様子が分かったのですが、それは東京や大阪のような都市に住んでいる子と、いわゆる地方にいる子では、やはり基準も違ったりするのでしょうか?

野村

読者アンケートで「このファッションページの服は私の地元だと着れません」とか「もうちょっと地元服を紹介してください」みたいな声は届いたりするので、やっぱり土地土地によってあるんだろうなとは思います。

逆にまわりから浮きたいという子はいないですか?

野村

モデルだと個性を出したいとがんばっている子もいて、そういうモデルを好きな読者はもちろんいるんですけど、読者から突き抜けた個性を出したいという声は聞かないですね。

そのほかに反響の大きかった企画などはありますか?

平野

けっこうみんなが読んでくれたなと思ったのは、2022年10月号で特集した「ちょっと聞きにくい女の子の話♡」という企画です。中学生で体が変わりはじめる時期に特有のお悩みだったり、人と違うかもしれないという不安だったりを専門家の方に伺っていく企画だったんですが、事前の期待値ランキングや読んだあとのアンケート結果もそれなりに高くて、みんな気になっていたんだなと感じました。いまはSNSなどでもいろいろな情報が手に入りやすくなっているので、大人がちゃんとした知識を伝えていかなくては、という意識もその企画の背景にはあったりしたのですが。

『nicola(ニコラ)』2022年10月号の文具特集の誌面 ©新潮社

『nicola(ニコラ)』2022年10月号の文具特集の誌面 ©新潮社

コロナで変わった? 両親との関係

ここまで同世代との関係についてのお話をうかがいましたが、家族との関係についてはどうご覧になっていますか?

平野

コロナがきっかけなのか、お友達感覚でお母さんと接している子が増えてきている印象があります。モデルでもお母さんと一緒に買い物に行くという子もいますし、服をシェアしているという子もいます。あとは、良いのか悪いのか分からないですが、お母さんに服を選んでもらっているという調査結果もあったりして。

お父さんとの関係はいかがでしょう?

野村

お父さんの話はあまり出ないですね。送り迎えをお父さんにしてもらったという話は聞きますが……

私たちのインタビューだと、お父さんと一緒にスイーツめぐりをしている女の子もいたりして、いろいろな関係があるんだなと思ったのですが。

平野

「お父さんすごく嫌い」みたいな反抗期的な声も聞かないですが、お父さんとどこかに出かけたという話もニコ(モ)からは聞かないですね。

【後編】につづく

PICK UP