写話アバター編をふりかえる アバターでインタビューしてみた私たち聞き手とVRの専門家との話 座談会【中編】インタビュー本番のこと

ゲームやネット空間ではおなじみのアバターを、私たちがこれまでおこなってきた写話インタビューに用いると、コミュニケーションにどんな変化が起こるのだろう? そんな疑問を出発点に、中学2年生のみなさんに協力していただき、聞き手としてアバターを使った写話インタビューを試行的に実施しました。

アバターを用いたインタビューを実施してみると、事前に想定していたこと、いなかったこと、さまざまな発見がありました。そこで、写話アバター編に関わったメンバーが集まり、座談会でインタビューをふりかえりました。

実際にアバターを使ってインタビューをしてみて感じたことから、これからのコミュニケーションにまつわる話まで、全3回でお届けします。

※アバターを用いたインタビューの模様は、写話アバター編#001〜#006 として本サイトで記事を公開しています(全6本)。

アバターは気楽?

ここからは、インタビュー本番のお話を聞いていきたいと思います。聞き手のお二人は、実際にアバターを使ってインタビューしてみてどう感じましたか?

T

良かった点だと、話を聞いているとき、自分の表情に気をつかわなくていいのは楽でした。

楽というと?

T

顔を出してインタビューするときって、不登校だとか、学校で嫌だと感じたことだとか、そういう話が出ると、私たちは子どもと接するプロではないので、正直どういう反応をするのがいいか分からないところがあって。

ことばはもちろん、表情でもこちらの反応は相手に伝わってしまいますよね。しかも、自分の意図とは違ったように受け取られるかもしれないし、それによってその後のインタビューに悪い影響が出るかもしれない……そう考えると、顔出しのときはかなり表情にも気をつかっていました。だけど、アバターならそこまで細かい表現ができないぶん、自分の表情を気にしなくてよかったので、それはすごく楽でしたね。

F

私は、アバターのほうが距離を縮めて話せた感じがあります。どのアバターも設定年齢が若かったので、無理やりそれに合わせたところもあるんですけど、顔を出しているときよりもカジュアルな感じで、気軽に話すことができたと思います。

インタビューを受ける子たちも、よく知らない大人と向き合うよりも、すこし緊張を解いて話してくれているような気がしました。本当のところどう思っていたかは分からないですけど。

T

Fさんの担当で、わりと伏目がちで、インタビュー中もずっとムスッとしているように見えた子がいましたよね。あの子はアバターとそうでないときの変化が分かりやすかったような。

F

そうですね。その子は、アバターが相手だと、恥ずかしがってなのか目を合わせるのは難しいんですけど、それでもこちらを見て話してくれた印象があったんです。だけど、こちらが顔を出してインタビューしたときは、スマホか何かを見ていたのか、わりと画面から目を逸らしがちで。その子をつないでくれた方によると、普段はおしゃべり好きなよく話す子らしいんですけど。

T

よく知らない大人と一対一だから、緊張してしまったんですかね。

F

そうかもしれません。そのインタビューに関しては、アバターのほうがコミュニケーションがうまくとれたと思います。

アバターを使ってZoomインタビューをする実験中の様子

アバターを使ってZoomインタビューをする実験中の様子

みんな意外と丁寧なことばを使っていました

語り手の変化で、他に気づいたことはあったでしょうか?

F

今した話と矛盾するようですが、インタビュー後に語り手の中学生たちに答えてもらったアンケートをみると、正直、聞き手がアバターのときと顔を出していたときで、そこまで大きな違いがなかったんですよね。客観的にご覧になっていたみなさん、いかがでした?

M

全体でみると大きな違いはあまりなかったかもしれないですけど、個別にみると何人かはやっぱり違いがあったなと思う人がいました。

たとえばどんな違いがありましたか?

M

相手の顔が見えているときには自分を大きく見せようとする場面がちょっと目立つ人がいて。アバターになったら、そういう発言が抑えられたのが印象的でした。あとは、アバターを相手にしたときのほうが、表情がやわらかくなった人もいました。

アバターだと、良くも悪くもリアクションがフラットになるので、それが話しやすいと感じる人もいるのかもしれません。そのあたりは、普段からアバターを使ったコミュニケーションにどのくらい慣れ親しんでいるかによって変わってくるところだと思うんですけど。

F

そうですね。アバターへの慣れについては、かなり個人差がありました。事後アンケートで「珍しい体験ができた」みたいな感想を書いてくれる子もけっこういましたし。一方で、ゲームなどで知らない人とコミュニケーションをとる体験をしたことがある子でも、インタビューの画面にパッとアバターが現れて「よろしくお願いします」なんて話しかけられると、やっぱり戸惑ったり、最初はどうしゃべっていいか分からない感じだったり、そういう様子もみられました。

アバターだからこそ、どういう距離感でコミュニケーションをとったらいいか、探り探りだった面もあるのでしょうか。

F

そうかもしれません。もうひとつ意外だったことは、かわいらしい見た目のアバターが相手でも、わりとみんな丁寧なことばづかいをしていたことです。

事前の予想では、キャラクターっぽいアバターに対して、もっとカジュアルに、それこそタメ語でどんどん話してくれるかもしれないと期待していたんです。だけど、インタビューが進んで、かなり打ち解けてしゃべるようになってからも、ある程度丁寧なことばでしゃべってくれて。これに関しては、今回協力してくれたみなさんが礼儀正しかったというのもあるかもしれません。一方で、だんだん慣れてくると、アバターのほうがより楽しそうにというか、やり取りが盛り上がった印象もあります。

アバターを使ってZoomインタビューをする実験中の様子

アバターを使ってZoomインタビューをする実験中の様子

距離感がちょっといい感じにチューニングされる?

宮田先生は、インタビューをどのようにご覧になったでしょう?

宮田

インタビューの冒頭で聞き手のアバターを選択するときに、そのアバターを選んだ理由を一人ひとりに聞いてもらったんですが、選んだ理由とその後のインタビューの様子の関係が興味深かったです。特に動物型のアバターを選んだ子たちは、その動物を飼っているとか、その動物が好きでとか、そういう理由を共通して答えていたんです。その子たちは、インタビューの様子を見ていても、最初からスムーズに話ができている印象があって。

そもそも自分が親しんでいる動物など、思い入れできる姿をしたアバターを選ぶことで、会話をはじめる前段階から距離感がちょっといい感じにチューニングされたのかもしれないなと。ただ、最初にその動物に対する愛着を聞いていたから、先入観でその後の会話がスムーズに聞こえただけかもしれないですし、ちゃんと調べてみないと分からないことではありますが。

その他に何か気づいたことはありますか?

宮田

繰り返しになりますけど、見かけだけでなく声も変えたことで、聞き手もそのアバターに乗り移りやすいというか、そのキャラクターを自身にインストールしやすくなっていたんじゃないかと思います。

自身がそのアバターのキャラクターに没入できるかどうかは語りにとって重要そうですね。

宮田

メタバースのアバターコミュニティでは、よくワールド(VR空間)内のいろいろなところに鏡が置いてあって。なぜかというと、アバターでなりたい自分になっているわけですが、それを鏡などでモニターすることで、「今、自分はこうなっている」ということを認識できるようにしているんです。

今回の取組では、いちおう聞き手の動きがアバターに反映されるようにしたり、声を変えたりはしましたが、聞き手がキャラクターに入り込める環境を作りきれなかったという心残りもありました。今、自分が相手にどう見えているかっていうのを、自然に伝えられる工夫ができると良かったなと。

あと、アバターの直接的な効果とは違う話ですが、普段の写話の流れのなかにアバターを選ぶっていうプロセスが入ったことで、それをきっかけに引き出せた話もあって、それも面白いと感じました。どのアバターと話したいかという選択の理由を聞くだけでも、その子ならではの考え方や経験を語ってもらうことができたと思うので。

※イメージ(VR空間)

※イメージ(VR空間)

ギャップを意識しすぎて意外な副作用

インタビューにアバターを使ってみて、難しいと感じたことはありましたか?

F

どちらかというと、顔を出してインタビューするときのほうでそれがあって。先にアバターでインタビューをして、そのあとに顔出しでインタビューをしたんですけど、この前のアバターもこの人かな?みたいに思われたら嫌だなと思って、顔出しのときは妙に丁寧なことばづかいになってしまいました。「写真を撮ってくださって本当にありがとうございました」みたいな感じで。

アバターのときとのコントラストをつけようとするあまり、かえって不自然になってしまったんですね。

F

アバターのほうは、年齢設定が若くてカジュアルな口調になるぶん、顔出しのときはカジュアルになりすぎないようにしようと、事前に聞き手側では決めていたんです。でも、それを意識しすぎてしまって、結果、意外な副作用が出てしまいました。

Tさんはいかがでした?

T

しいて挙げるなら、動物型のアバターのときに、手足が短いからか、なかなか手の動きが反映されなくて。小さい動きだと反映されないので、すごいオーバーリアクションになってしまいました。

F

ちょっとしたことにリアクションするのでも、大袈裟に動かなくちゃいけなくて、それはちょっと大変でしたね。

宮田

着ぐるみの「中の人」みたいな感じの動きをイメージすると、この記事を読んでいる方にも分かりやすいかもしれません。

F

動きの大きさの話もそのひとつですけど、アバターのお作法というか、どう見られるかというところでは工夫の余地がかなりあると感じました。アバターを使うからこその、話し方とか相槌の打ち方、話すテンポ、目線の付け方、もっといろいろとできることがあるんだろうなと。目線のことなど、宮田先生にも指摘していただいたんですけど。

宮田

インタビューに関する手元の資料を見ながら話すと、どうしても目線が下にいきがちで、相手のほうを見ていない感じになってしまうんですよね。でも、できるだけカメラのある前方を見るようにすることで、語り手からすると自分のほうを見て話を聞いてくれていると感じられるようになる。そういう細かい演出は、やりはじめたらいくらでもやれることがあると思います。

アバターならではの難しさについて、他に何か印象に残っていることはありますか?

M

インタビューを見ていて気になったんですけど、やっぱり細かいニュアンスが伝わりづらいなと思いました。ボイスチェンジャーをとおすと、声はどうしてもデジタルな感じになってしまって、細かい声の高低とかが分からないんですよね。事後アンケートで「表情が見えないから話しづらい」と答えていた子もいましたし、表情だったり声だったり、そういうところがリアルに表現できる技術が発達したら、もっとインタビューがしやすくなるのではないかと感じました。

オンラインで写話のインタビューをしている様子(アバター編のものではありません)

オンラインで写話のインタビューをしている様子(アバター編のものではありません)

【後編】テクノロジーとこれからのコミュニケーション につづく

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