前編の記事では「教室で写話」プロジェクトをきっかけについてお伝えしました。今回の記事では、実際に教室で写話に取り組んでくださった先生方の声を紹介しながら、学校で写話に取り組む意義について紹介したいと思います。
まず、実際に教室で写話に取り組んでくださった3名の先生方の声をご紹介します。
たった1枚の写真が、
他者理解と自己理解を深めるきっかけに
私は、毎年、“お互いの個性を認め合い、高め合う学級づくり”をしたいと願っています。たまたま同じ年齢、同じ地域で生まれ、同じ学級になった子ども達。もともとバラバラな子ども達が1つの学級集団として1年間成長していく。ただ、それは簡単なことではありません。
そのためには、様々な関わりを通して、お互いの違いを認め合い、その多様性の中で、お互いに新しい気づきが生まれることが必要だと思います。教師から、学級に意味のある関わり、つまり、“いつでも・どこでも・だれとでも対話して高め合う環境”を年間通して意図的に働きかけることが欠かせません。
今回、その方法の1つとして、5年生の学級で「教室で写話プロジェクト」に取り組みました。
4月、新しい学級になって、どこか緊張している子ども達。そこで、早速、自分の好きなものの写真1枚をタブレットで提出するという宿題を出し、次の日に様々なペアで3分間トークの授業をしました。
徐々に様々なペアから、「私も一緒やわ。」「へーそうなんだ。」などの自然な反応で笑い合う姿、「特に、これのどんなところが好きなん?」などのお尋ねで交流する姿が見られました。たった1枚の写真をきっかけに、ありのままの自分を伝え合ってしまう、このプロジェクトの良さを感じた瞬間でした。
10月、4泊5日の自然学校で様々な体験活動をした子ども達。学校で自然学校の作文を書く学習の前に、沢山撮りためた活動写真の中から、一番心に残った体験の写真を1枚選んで、様々なペアで3分間トークの授業を行いました。
同じ体験活動をした子ども達でしたが、それぞれの見方・考え方が違えば選んだ写真や話す内容も違うことに気づき、大いに盛り上がる姿が見られました。その後、作文を苦手とする児童Aは、交流をきっかけに、友達が感じたことも自分も感じていたことに気づき、文章にすることができました。
このように写話は、たった1枚の写真という準備だけで、他者理解、自己理解を深めることができる有効な働きかけであり、“お互いの個性を認め合い、高め合う学級づくり”に適していると思います。
写真提供:山下賢
相手の立場に立った質問で相手のことを知っていく
「自分の好きなもの」「みんなに見せたいもの」等、子ども自身が語りたくなるようなテーマで取り組みました。友達との繋がり方っていろいろあると思うんですが、「言葉」で繋がれるって素敵ですよね。私は、日頃から、自分の思いを言葉で伝えるということを大切にしながら授業や学級経営をしています。
今回の写話においては、写真を見せたら、まず質問から入るように指導しました。質問力を高めることが、コミュニケーション力を高めることにつながると考えたからです。私たち大人でも、誰かと対話する際に、言葉のキャッチボールが続いたり、話が深まったりするような場合、互いに相手の話を聞きながら適度に質問を投げかけているんですよね。
最初は、写真を見て、単なる自分の知りたいことを質問していたのですが、何度かしている内に、「相手はきっとこういうことを話したいだろうな」と相手の気持ちを予想して質問できるようになっていきました。例えば、「これはどういう時に使うんですか?」という質問から、「これを使っている時は、どんな気持ちになりますか?」というように。
実際に、数回の写話を通して、自分中心の質問から、相手の立場に立った質問ができる子が増え、次々と質問をしながら写真のことを通して相手のことを知っていく子ども達の姿が見られました。写話を通して、言葉で友達とつながる心地よさをぜひ多くの子どもたちに感じてもらいたいですね。
写真提供:行本憲司
写話を通して子どもを知り、子どもを知って学級を作る
私は他の先生方に比べると教員経験がまだ浅く、学級経営についてはまだまだ勉強が必要だと感じています。先輩方からアドバイスをいただき、子どもたちにとって居心地の良い学級をつくろうと試行錯誤の日々を送っております。
とりわけ、子ども同士の関係性を知ることは、学級経営においてとても大切なことだと考えています。学級担任としては、学級の中で他者のことを知ったり、他者のことを考えたりして、多様な価値観を得てほしいと考えています。写話プロジェクトの話を聞いた際、やり方によっては、子ども同士の関係性に変化を与えることができるではないかと思いました。
そんな気持ちで始めた写話でしたが、私にとって子どもを知る機会になったと思います。例えば、「好きなものの写真を撮っておいで」というと、好きなものの写真を撮ってくる子どももいれば、とりあえず自分の持ち物を適当に撮ってくる子どももいました。写真を使って話をする活動では、話が盛り上がって時間が足りないグループがあれば、「話すことがない」とすぐに話を終えてしまうグループなどもありました。
こちらの想定とは違う子どもの姿があったことに、初め戸惑いました。が、逆にそれが子どもたちの姿を知るきっかけになりました。
よくよく観察してみると子どもによっては、心の内側(本当に好きなもの)を見られるのを恥ずかしがっていたり、あまり関係ができていない子ども同士でどんな風に話せばいいのか分からなかったり、他人から変だと思われないかと思い素直に話せなかったり…など私が普段の関わりだけでは見取れていなかった子どもの姿が見えてきました。
担任として、そのような子どもへの関わり方を考えさせられました。そして、一年間、写話を何度も行ったり、気になる子どもの様子を見て関わったりすることを意識して、学級経営を行うことができました。
写話を通して子どもを知り、子どもを知って学級を作る。写話プロジェクトの取り組みが、私自身の成長に、また子どもたちにとっても他者を知る機会になったと感じています。
写真提供:畠野創一郎
教室で写話に取り組む3つの意義
3名の先生方には年間を通して定期的に写話に取り組んでいただきました。お読みいただいたのは、先生方が実際に教室で子ども達と写話に取り組んでみた感想です。ここから、教室で写話に取り組む意義が取り出せます。たくさんあると思いますが、私は大きく3つだと感じました。
一つ目は、人間関係の形成です。山下先生の報告からは、写話を通して子ども達同士が仲良くなっていく様子がよくわかります。人間関係の作りづらさが指摘されることも多い世の中です。でも、教室で写話に取り組むことを通してありのままの自分をさらけ出すことにチャレンジしながら、お互いの理解を深めていくことができるのではないかと思います。
二つ目は言葉の学びです。行本先生は、質問するという学びの要素を写話に巧みに織り交ぜながら実践されています。写話は生きたコミュニケーションです。教師から、子ども達が語りたくなるテーマが設定されることで、子ども達は意欲的に写話に取り組みます。
自分のことをうまくわかってもらわないといけませんし、相手のことをしっかりと理解しなければなりません。そのためには言葉とどう向き合っていくべきか、自然とそちらに意識が向きます。写話は言葉の学びととても相性がよい活動だということがよくわかります。国語の学びをサポートする活動としても機能させることができるでしょう。
三つ目は、教師自身の子どもを見る目を鍛えることにつながるということです。畠野先生は、他の2人の先生と比べ、教師経験のまだ浅い先生です。ですが、写話を通して子どものことがより深くわかっていったようです。子ども理解の幅が広がったり深まったりしているのだと考えられます。
教師の多忙な仕事が最近問題になっています。どの先生もじっくりと子ども一人ひとりを見つめるゆとりが削られていっているかもしれません。教室で写話を定期的に実践することで、一人ひとりの子ども理解を確かにしていく機会を確保できると思われます。
教室で写話に取り組む意義は、今回取り上げた3つ以外にもきっとあるでしょう。この記事をお読みになられた先生方が、ぜひご自分の教室で子ども達と写話を実践されて、その意義を確かめていただきたいと思います。
写真提供:行本憲司
(後編につづく)