最終回のこの記事では、写話に興味を持たれた先生が明日すぐにでも始められるように、具体的な写話のプログラムを次の5ステップで提案したいと思います。
1.内容と目的を説明
2.写真の準備
3.写話本番
4.気付きの振り返り
5.教師から子ども達へのコメント
プログラム案 ステップ1
写話の内容と目的を説明しましょう!
子ども達と写話に取り組むにあたって、まずは写話という活動の内容と目的について子ども達に理解してもらわないといけません。大まかには次のような説明でよいと思います。
これからみなさんには、写話という活動に取り組んでほしいと思います。写話というのは、テーマに沿って自分が撮影してきた写真について相手とお話をする活動です。写話に取り組むことでお互いのことがもっとよくわかるようになります。知らなかった相手の一面を知ることができるかもしれませんよ。もしかしたらこれまで気づかなかった自分の新たな一面も見えてくるかもしれません。相手をよく知り、自分もよく知り、もっと仲良しの学級をつくっていきましょう。
赤文字で示した部分は各教室の実態や先生方のねらいに応じて柔軟に変更可能です。例えばテーマは「自分の好きなもの」「わたしの休日」のように自分を紹介するようなものもあれば、「社会見学で心に残った一枚」のように他教科の学習に沿ったものも考えられます。その時々で子ども達が興味をもって話したり聞いたりできるようなテーマを設定しましょう。
もちろん写話の目的も先生方のねらいに応じて変更できます。前回の中編で紹介した先生方の声を例にとると、山下先生は人間関係作りにねらいの重点を置いていました。一方、行本先生は言葉の学びを大切にして実践されていました。両者を合体させることだってできるはずです。あるいはねらいの設定段階では予想していなかった写話の効果も見えてくるかもしれません。畠野先生のように、子どもを柔軟に見つめる教師の目を鍛えることにつながればすてきだと思います。
写真提供:行本憲司
写話で使用する写真を準備してもらいましょう!
次は写話で相手に紹介したい写真を準備する時間を取りましょう。子ども達に写真をじっくりと選んでもらうために、自宅学習とすることも可能です。写真の枚数も柔軟に変更することができますが、これまでの経験上1枚の写真をもとにやり取りの中で話をふくらませるほうが、子ども達にとっては楽しい活動になると感じています。
注意事項としては、写真選びの際に「相手に見てもらう」ということをしっかりと伝えておくことです。自由に写真選びを楽しんでもらってよいのですが、相手が嫌な気持ちになるような写真、後から振り返って相手に見られたくなかったと感じるかもしれない写真は、この段階で自分の判断で選ばないように伝えておくことが大切です。これについてはメディアリテラシーともつながる視点での教師の声かけが求められます。
写話に取り組んでもらいましょう!
いよいよ子ども達に写話に取り組んでもらいます。まずは写話の時間を伝えましょう。短すぎると、不完全燃焼になってしまうので、最低でも5分は確保したほうがよいでしょう。可能であれば8分。はじめは「もう話すことがない~」と言う子どももでてくるかもしれません。継続的な取り組みを通して「もっと時間ほしい!」と言ってくれるようになればうれしいですね。
話す相手の人数も工夫できます。ペアだと沈黙しそうで心配だという場合は、3人チームで取り組ませることも可能です。あまり多すぎると、話を聞かない子どもが出てきますのでご注意ください。
写真提供:行本憲司
写話での気付きを振り返ってもらいましょう!
写話に取り組んだ後は、写話をしてみて「気づいたこと」「楽しかったこと」など、振り返りをまとめてもらいましょう。写話を通して一人ひとりの子どもの中に、どのような「化学変化」が起こったのか、子ども自身が自覚できるとともに、教師も一人ひとりを確実に把握することができます。ICTを活用して提出してもらうことで、個人の振り返りが蓄積され、その子どもの変化を長いスパンでとらえやすくなることも考えられるでしょう。
教師からのコメントを子ども達に伝えましょう!
写話に取り組む子ども達の様子を観察したり、子ども達の振り返りを読んだりする中で、先生方も子ども達にコメントを伝えてあげましょう。「自分のことを一生懸命話せていたね!」「聞いている人もとても楽しそうでした!」「質問を効果的に使って相手の言い足りない部分を引き出せていましたよ!」など、写話の目的に応じて価値づけたい子どもの姿をコメントという形で伝えることで、教師が設定した目的の達成により近づけるでしょう。
一人ひとりの振り返りにコメントを書き添えるのもよいでしょうし、全体に一斉に伝えるというのもよいと思います。いずれにしても活動をさせっぱなしにせず、教師としての前向きな評価を伝えることが大切です。そうすることで、次回の写話に向けた子ども達の積極的な取り組みも促せます。
写真提供:行本憲司
5つのステップでプログラム案をご紹介しましたが、これはあくまでも一例です。ぜひ先生方には担任する教室や、ご自分の教育理念に合わせて、柔軟に写話の活動を工夫していただきたいのです。そうすることで、全国の教育現場の実態に合わせた写話が展開されていけば、とてもすてきなことだと思います。子どもも教師も、「ありのままの自分」を大切にしてもらえる、そんな幸せな教室が写話を通じて一つでも多く増えることを願っています。
「相互理解の楽しさ」を発信するツールとして
「好きなもの」の写真を撮ってきてもらう。その写真を一緒に見ながら、話を聞く。 「写話」はただそれだけの、とても単純で簡単なものです。しかし、実際にやってみると、思った以上に面白いのです。そして、話している子どもたちも何だか楽しそうなのです。そもそも大人本位の「子どもを知る」という目的を超えて、写真を媒介にした対話が、自己開示を促したり、関係性を変えたり、ひいては自己の再認識につながったりするのを目の当たりにして、写話の手法/活動としての可能性を感じるようになりました。しかし、果たして誰が興味を持ってくれるのだろうか…。そんな時に、友永先生からご連絡をいただきました。そして、友永先生と3名の先生方が、写話の新しい可能性の扉を開いてくださいました。
印象的だったのは、教室で実践された3名の先生方のアプローチがそれぞれ異なっていたこと。同じ手法をベースにしながら、学級での意味付けやねらいの違いに、先生の個性も反映されて、三者三様のユニークな活動になっていきました。そんな教室での取り組みは、大人が子どもにインタビューするスタイルに慣れているわれわれメンバーにとっては新鮮で学びの多いものでした。こうしてせっかく扉を開いていただいたので、これからもっと多くの学校の先生や子どもたちに写話を活用していただきたいと考えています。この手法/活動としての写話を、聞き手にとっては「(自分と違う)人を知ることの楽しさ」、話し手にとっては「自分を語ることの楽しさ」、という、いわば“相互理解の楽しさ”を発信するツールにできるのではないか、と妄想しつつ…。
最後に…この「教室で写話」プロジェクトで、小学校教諭として多忙な中でも子どもたちや学級の話となると実にイキイキとした様子で語る先生方に出会えたことが、個人的には何より嬉しかったことでした。