「教室で写話」プロジェクトの記録【前編】 学校の先生たちが教室で写話をやってみた話 寄稿:友永達也 神戸大学附属小学校・教諭

ある日、こども研究所に一通のメールが届きました。送り主は、とある小学校の先生。写話プロジェクトの目的や実際の活動について、ウェブサイトをみて興味をもってくださったというのです。

それが私たちこども研究所と神戸大学附属小学校教諭・友永達也さんとの出会いでした。そして、友永さんの呼びかけにこたえた、3名の小学校教諭のみなさんと共に、「教室で写話」プロジェクトはスタートしました。

この記事は、学校の教室で実際に児童のみなさんに写話をやってもらった「教室で写話」プロジェクトの1年間の記録です。プロジェクトの発起人である友永さんに、教室における実践からみえてきた写話の新たな可能性や、具体的な教室での写話のはじめ方について、まとめていただきました。

プロフィール

友永達也(ともなが たつや)

友永達也(ともなが たつや)

神戸大学附属小学校・教諭

専門科目は国語科。特に話すこと・聞くことの指導に関心があり、現在、学習者が問う力を高めるカリキュラムの開発や、メタ認知に基づく判断を活かしたコミュニケーション教育、小学生を対象とした聞き書きプロジェクト等に取り組んでいる。また、国語科を中心として、問題解決的な単元デザインとその実践にも日々取り組む。

全国大学国語教育学会、日本国語教育学会、日本教育方法学会、国語教育実践理論研究会に所属するとともに、複数の国語科教育勉強会の運営にも携わる。

単著執筆として『1回10分!トークタイムできく力を育てる ストラテジック・リスニング』(明治図書・2020年)が、分担執筆として『対話的に学び「きく」力が育つ国語の授業』(明治図書・2018年)、『「感性的思考」と「論理的思考」を生かした「ことばを磨き考え合う」授業づくり』(明治図書・2020年)がある。

プロジェクトのはじまりと目的

はじまりは、違和感と予感

まずはこの「教室で写話」プロジェクトを始めた経緯からお話していきたいと思います。きっかけは、私自身が写話という活動に魅力というか、違和感というか不思議な気持ちを感じたことでした。写話という活動をホームページで見て初めて知った時、その目的がうまく理解できなかったんです。もっと率直に言えば「何のために写話をやってるの?一体、目的は何?」という感じでした。

子ども達の実態を調査して新たな教育コンテンツの立ち上げに生かしたり、写話という教育手法の有効性を検証したりするなど、時間をかけてやるからには普通はそういった分かりやすい成果を求めるものだろうと思い込んでいたので、「子どものありのままを知る」というこども研究所の目的について、「本当にそれだけ?実は隠されたねらいがあるんじゃないの?」と半信半疑でした。

私は自慢ではありませんが行動力がある方だと思っていまして、不思議に思ったり興味を持ったりしたらすぐにコンタクトを取ってあれこれと質問をさせていただいています。ですから、その時もすぐにこども研究所と連絡を取りました。そこで対応して下さったのがこども研究所研究員のFさんです。

写真提供:行本憲司

写真提供:行本憲司

Fさんたちこども研究所の方々と何度かオンラインでやり取りをさせていただいて、本当に子ども研究所の方々は子どものありのままを知ることを一番に考えてるんだということがわかりました。素直にすごいことだと思いましたし、日々子どもたちと接する私たち教師も忘れてはいけない視点だと思いました。

ただ私には、この写話の可能性みたいなものがその時点でいくつか思い当っていて、私はあくまでも教師ですから、きっと教室で写話をやってみたらいろんな効果が生まれそうだという予感がありました。

そこで、こども研究所がこれまでに取り組んできた写真をもとにした対話の中で、相手のありのままを知っていくという大きな目的はそのまま生かしつつ、教室の中でたくさんの子ども達が一斉に活動できるようなプログラムを開発することとしました。テーマや写真の枚数、ルールなどを工夫することで、子ども達が楽しんで写話に取り組めるだろうと考えたのです。

次の3つを通して、学校で取り組む写話の魅力を発見することを目的として、こども研究所の方々と共に「教室で写話」プロジェクトに着手し始めました。

①教室版写話のプログラムを模索しながら確立していくこと
②写話を実際に教室で取り組んでみること
③取り組みの中で価値ある子どもの姿を見出すこと

写真提供:行本憲司

写真提供:行本憲司

プロジェクトの概要

ミーティングは、毎回時間オーバー

「教室で写話」プロジェクトをするにあたって、教室で写話に取り組んでくださる先生方を募るところから始めました。実は2023年度は私が大学院に在籍していた関係で、私自身が教室で子ども達と写話を実践することができない状況にありました。

幸い、私の周りには、私と同じく好奇心旺盛な先生方が多いので、すぐ3名の先生が手を挙げてくださいました。次回記事で、実際に教室で写話に取り組んでくださった先生方もご紹介します。

「教室で写話」プロジェクトでは、3名の先生方にそれぞれの教室で年間を通して実際に写話に取り組んでいただきました。そして先生方が写話を実践する中で感じた率直な意見や疑問、子どもの姿などを持ち寄って、こども研究所の方々を交えてオンラインで議論をするという流れで進めてきました。

オンラインミーティング中のプロジェクトメンバー

オンラインミーティング中のプロジェクトメンバー

2023年度は計5回ほどミーティングを行いましたが、毎回絶対に予定時間をオーバーします。なぜなら先生方は写話の手ごたえを感じてくださっていますし、こども研究所の方々も興味をもって聞いてくださいますので、「子どもを知るとはどういうことなのか」「写話を通して子どもにどう寄り添うべきか」など、常に議論が白熱するからです。

これらは学校の内外を問わず、子どもと関わる全ての大人にとってとても大切なテーマだと思います。私たちはこのプロジェクトを通して、これらのテーマについてたくさんの時間をかけて議論してきました。次回の記事では、私たちが感じた教室で写話に取り組む意義について、先生方の実際の声を交えながらご紹介します。

(中編につづく)

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