座談会メンバー
元研究員W
写話プロジェクト参画期間:
2019〜2025年度
インタビュー手法「写話」の生みの親のひとり。こども研究所で写話プロジェクトをはじめた人物。音楽と読書が好き。
研究員F
写話プロジェクト参画期間:
2019〜2025年度
スタート時から写話プロジェクトに参画。2025年度までプロジェクトのリーダーを務める。お茶や着物など和風なものが好き。
研究員K
写話プロジェクト参画期間:
2024年度〜
2024年度から写話プロジェクトに参画。2026年度からプロジェクトのリーダーを務める。土偶と散歩と謎解きが好き。
「ありのまま」を知るための
インタビュー手法
写話プロジェクトは、Wさんがこども研究所在籍時に立ち上げられたプロジェクトです。まずはプロジェクトがはじまった経緯を教えていただけますか。
そもそも「写話」が生まれた経緯から話したいと思います。私が博報堂生活総合研究所に在籍していた当時、従来の調査では「ありのままの生活者」を知ることができないという問題意識がありました。定性調査でグループインタビューをしても参加者は本当のことを言わないし、定量調査で数字に集約すると抜け落ちるものがあるのではないか、と。そこで調査手法そのものをゼロから見直すことになり、写真とインタビューの2段階でリアルを探していこうという調査手法のアイデアが出てきたんです。
そのアイデアを精神科医の斎藤環さんに相談したところ、精神科医の中井久夫さんが創案した風景構成法に似ていると言われました。風景構成法は、言葉を使わずに絵を描いて心理状態を表現するカウンセリング手法です。それになぞらえて「写真談話構成法(略称:写話)」という名前が生まれました。その成果は『写話年鑑2004』というかたちで発表しました。
そもそも写話は、子ども向けのインタビュー手法として生まれたものではありません。大人ではなく子どもを対象とするにあたって、不安だったことや、何か意識されたことはありますか?
子どもにインタビューするのはすごく難しいのではと思っていました。特に中学生男子はしゃべってくれないかもしれない、と。だけど蓋を開けてみたら、写真っていうとっかかりがあるので、程度の差こそあれ、みんな何らかのことはしゃべってくれて安心しました。
プロジェクトがはじまった2019年度は、インタビューの対象を10歳の子どもに絞っていました。そのねらいも教えていただけますか。
小学校4・5年生にあたる10歳は、自我や自分の好みが芽生えてくる脳の発達時期だと聞いたことがあって、その年齢に興味がありました。プロジェクトが立ち上がる前にテストとして知り合いづてに何人かの子にインタビューさせてもらったんですが、そこでも10歳くらいの子たちが面白くて。内容以前に、語り方が子どもならではというか、すごくラフで正直だなと思ったんです。未熟というよりもリアルというか。そこで、最初は10歳の子どもたちを対象にインタビューしていくことにしました。
全国巡業で子どもたちの
声を聞いた1年目
Fさんは、立ち上げ当初から写話プロジェクトに参加されています。当時のことで何か印象に残っていることはありますか?
当時、私はこども研究所に来たばかりで、ちょうどはじまったばかりの写話プロジェクトを担当することになりました。こちらが用意した会議室などに呼んで話を聞くのでは子どもたちも本領発揮できないだろうということで、子どもたちが実際に暮らしている土地のなじみのある場所で話を聞くために、巡業のように各地に出向いたのがプロジェクトの1年目でした。
その土地に行くと子どもたちが生活している環境も分かるので、それを知ったうえで話を聞けたのも良かったです。もっともっといろいろな場所で写話をやりたいね、とこども研究所のみんなで話していたところにコロナ禍がきてしまい、2年目でやり方を変えることになったんですが。
インタビューに行く地域は、どんな基準で選定したんですか?
まずは都心部ということで東京の中野区からスタートしたんですが、できるだけ異なる特徴をもっていることを条件にあとの3地域を選びました。群馬県前橋市は、いわゆる大都市郊外のエリアとして。広島県江田島市は、島に住む子どもたちに話を聞きたくて。岩手県山田町は、東日本大震災で被災した東北の沿岸部ということで決まりました。
Kさんが写話プロジェクトに参加されたのは2024年ですが、それ以前からレポート冊子などで写話プロジェクトのことはご存じだったとうかがいました。一読者としてどんな印象をお持ちでしたか?
子どもの調査って難しいんですけど、写話はおしゃべりが苦手な子でも、写真を見ればその子の様子や感じが分かるし、話のきっかけになっているのが面白いと思っていました。特に2019年度は、インスタントカメラの「チェキ」で撮った写真に子どもがタイトルを手書きしていて、本人の書いた文字が写真に添えられているのも味がありますよね。
2019・2020年度におこなったインタビューをまとめた冊子は、こちらからPDFでダウンロードできます
自分の「好き」を話すということ
2020年というのは、写話プロジェクトにとっても大きな変化の年でした。新型コロナ感染症(COVID-19/以下、コロナ)によって対面で何かをすることが難しくなったため、対象年齢を14歳に変更し、事前のやりとりもインタビューもすべてオンラインになりました。また、外部のインタビュアーではなく、こども研究所の研究員のみなさんが直接インタビューするようになりました。そこで聞き手としてのみなさんにうかがいますが、子どもたちにインタビューする際、どんなことを意識されていますか?
どうしてもマーケティング調査みたいに、答えや結論ありきでインタビューしてしまいがちなので、そうならないよう気をつけました。子どもが考えたり言いよどんだりしても、ちょっと待ってゆっくり聞くとか、結論を求めないように、とはいまも考えています。
私がインタビューしていたのはかなり前ですが、なるべく雑談っぽく、多少話題がずれてもいいから楽しく話すことは大事にしていました。
対面でやっていたときも、調査っぽくならないよう気を配りましたよね。江田島のインタビューは、地域の居場所スペースをお借りして畳敷きの場所でやりましたし、前橋では英語教室のクッションマットを敷いた部屋で、かるたみたいに床に並べた写真を一緒に見ながら、リラックスして話せるようにしました。
子どもにとっては人生初のインタビューですからね。自分が逆の立場で、会議室みたいな場所だったら泣いちゃいますよ。
初対面の大人っていうだけで身構えますよね。でも、みんな大人の前でもしゃべれるからすごいなと思います。
自分のことを聞かれるのが嫌じゃないというか。好きなことを話せるのってちょっと嬉しいんだなって思いますね。話しても大丈夫という心理的安全性があることが前提ですけど。
好きなものやことだから、すごく楽しく話せるし、言葉がたくさん出てくるのかもしれませんね。自分が好きなことを1時間も話す機会ってあまりないじゃないですか。しかも大人が真剣に聞いてくれるのは、写話の良さでもあると思います。
インタビューを重ねていくうちに、子どもたちが好きなことを話すなかで、自分自身に対するふりかえりのようなことがおこなわれているのでは、とも感じるようになりました。
その子自身が自分のことをふりかえり、好きなものをもう一回言葉にしてみるという行為には、カウンセリングのような効果もあるかもしれませんね。
【中編】につづく
